研究内容
抗体医薬に対して過敏症が起こる仕組みの解明
●抗体医薬に対する過敏症とは?
抗体医薬の投与後にアナフィラキシーやインフュージョンリアクション(輸注反応)が起こることが知られています。投与した抗体医薬がアレルゲンとなり、抗体医薬に対する抗薬物抗体(ADA)が産生します。その後、抗体医薬を投与するとADAと反応してしまい、アナフィラキシーが起こります。これはI型アレルギーに分類され、発症すると重篤なケースも多いですが、発症機序の解明は進んでいません。またインフュージョンリアクションは抗体医薬の初回投与後に発症頻度が高い過敏症です。初回投与時はADAは産生していませんので、インフュージョンリアクションはアレルギー反応とは異なるとされています。こちらもどのようなメカニズムで発症するか解明は進んでいません。従って、これら過敏症がどんな抗体医薬で起こりやすいか、どんな患者でリスクが高いか、また予防や治療の標的も同定されていないのが現状です。
●抗体医薬に対するアナフィラキシーが発症する仕組み
我々は、免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-L1抗体, clone 10F.9G2)をマウス大腸癌CT26担癌マウスへ複数回投与するとアナフィラキシーが発症することを偶然発見しました。このアナフィラキシーは健常マウスでは発症しません。また、同じ大腸癌でもColon26担癌マウスではアナフィラキシーがまったく発症しませんでした。つまり、がん病態の進行によってアナフィラキシーを発症しやすくする要因があると考えられます。これらの担癌モデルを比較しながらメカニズムの解明に取り組んでいます。一般的な薬剤性アナフィラキシーは、投与した薬剤に対して抗薬物抗体(ADA)としてIgEが産生し、肥満細胞などがケミカルメディエーターとしてヒスタミンを放出することで発症します(図1右)。一方でCT26担癌マウスの場合は、投与した免疫チェックポイント阻害剤に対してADAとしてIgGが産生していました(図1左)。また、CT26担癌マウスは、がん関連骨髄系細胞が著しく増加していました。このなかでマクロファージと好中球が抗体医薬とADAの複合体を認識し、ケミカルメディエーターとして血小板活性化因子(PAF)を放出しており、アナフィラキシーを引き起こす原因分子であることを明らかにしました(Arai T. J ImmunoTher Cancer, 10:e005657, 2022)。これらの結果から、がん関連骨髄系細胞の増加は、アナフィラキシーの発症を促進する可能性があります。

●抗体医薬に対する抗薬物抗体(ADA)産生が亢進する仕組み
同じ抗PD-L1抗体でも10F.9G2とは別のクローンの抗体(MIH6)をCT26担癌マウスへ投与しても、ADAは産生せずアナフィラキシーは発症しませんでした。これは、抗体医薬のFc領域が、がん関連マクロファージや単球細胞のFcγ受容体を介して認識され、異物として抗原提示されていました(Tang R. J ImmunoTher Cancer, 2026)。その後、液性免疫が活性化するためADA産生が亢進したと考えられます。これは、抗体医薬が本来認識する標的分子とは無関係なメカニズムです。Fcγ受容体親和性は抗体医薬の薬効メカニズムであるADCC活性と相関します。従って、ADCC活性の高い抗体医薬はADA産生やアナフィラキシー発症のリスクが高い可能性があると考えられます(図2)。

●抗体医薬に対するインフュージョンリアクションが発症する仕組み
インフュージョンリアクション(輸注反応)の症状自体は、軽度であることが多く重症となる頻度は低いですが、発症すると点滴速度をゆっくりする必要があり患者さんの負担が大きくなります。また症状が改善しない場合は抗体医薬の投与自体が中止されることもり、患者さんは治療機会を失ってしまいます。インフュージョンリアクションは抗体医薬の初回投与時に最も頻度が高い過敏症なため、アナフィラキシーとはメカニズムが異なるとされています。臨床でインフュージョンリアクションの発症頻度が高い抗体医薬では、抗ヒスタミン剤や解熱鎮痛剤、ステロイド剤が事前に投与されているにも関わらず、発症予防が十分ではありません。我々は、これまでにインフュージョンリアクションとの関連が報告されていない分子が原因となる可能性を見出しました(特願2026-027509 )。現在、インフュージョンリアクションの発症メカニズムの解明を進めており、新たな予防や治療法の確立を目指した研究を進めています。
●データベースを用いた抗体医薬の過敏症発症に関する解析
担癌モデルを用いた基礎研究を通じて過敏症発症メカニズムを明らかとしています。これが臨床と同様の傾向があるかを調べるために、副作用自発報告データベースを用いた解析を行っています。これまでに承認されている100以上の抗体医薬の中で、どのような抗体医薬がアナフィラキシーやインフュージョンリアクションの発症報告が多いかなどの解析を進めています。