研究内容
温熱耐性のメカニズムの解明と新規がん温熱・免疫複合療法へ
1. がん細胞の温熱耐性メカニズムの解明
がんは熱に弱いとされ、がんを温めて殺すがん温熱療法の研究が進められています。一般に、温熱療法ではがん組織を42.5℃前後に温めるとされていますが、温められたがん細胞の何%が死ぬのでしょうか。どのように温めるかや時間など温熱条件によっても変わりますが、定量的に解析された研究や、温熱下でがん細胞がどのような応答をするのか、詳細に解析された研究はほとんどありませんでした。畠山がMDアンダーソンがんセンター在籍時に10種類の卵巣がん細胞を調べた結果、温熱下で死に至る温度に大きな違いがあり、43℃の温熱ではほとんど死なないがん細胞が存在することを世界で初めて見出しました(Hatakeyama H, et al. Cell Report, 2016)。つまり、抗がん剤に耐性があるように、温熱治療にも耐性を示す細胞が存在する可能性があります。温熱耐性因子となる遺伝子の同定に成功し、これを阻害することで金属ナノ粒子によるがん局所温熱治療の効果を向上させることに成功しました。(「日経産業新聞2016年8月25日」、「千葉大学特色ある研究活動の成果」、「千葉大プレス」で研究成果が紹介されました)。
上記の研究の過程で、温熱耐性SKOV3細胞では、温熱ストレス下で解糖系酵素が減少することが示されていました。タンパク質、代謝物の変動のオミックス情報を用いることで、解糖系抑制が実際に代謝物量に影響し、温熱下での解糖系酵素減少のメカニズムを明らかとしました(Kanamori T, et al. Sci Rep, 11, 14726 (2021))。またエネルギー代謝が解糖系からミトコンドリアへとシフトする代謝適応(アダプテーション)が誘導されていることが示唆されています。
しかし、温熱ストレス下におけるこのような応答がなぜ温熱耐性に結び付くのかは依然として不明です。これらの解明を通じてがん細胞の温熱耐性の生物学的な意義を解き明かしていきたいと考えています。
2. 光温熱療法と免疫療法によるがん治療法の開発
金や銀、銅などで作られる金属ナノ粒子は、光エネルギーを吸収し熱に変換します。この性質を利用し、金属ナノ粒子が集積した腫瘍局所に光を当てることで腫瘍組織の温度を上昇させがん細胞を殺傷する光温熱療法の研究が進んでいます。我々も金ナノ粒子が集積している腫瘍組織へ近赤外光を照射すると、腫瘍増殖が抑えられ、また免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせることで効果が向上できることを見出しました。一方で、光温熱療法を行っても、効果がまったく見られず腫瘍が増殖していく担癌モデルも存在します。がん細胞自体は光温熱治療への感受性が同等であることから、がん細胞が形成する腫瘍微小環境や個体レベルでの免疫応答が異なると予想しています。光温熱療法による効率的ながん治療の確立を目指して、応答性の違いを生み出すメカニズムの解明を進めています。