研究内容

温熱耐性のメカニズムの解明と新規がん温熱・免疫複合療法の開発

● 温熱耐性がん細胞の発見

「がんは熱で治療できる」とは医学の父であるヒポクラテスの言葉です。紀元前からがんは熱に弱いとされており、がんを温めて殺す「がん温熱療法」の研究が進められています。一般に、温熱療法ではがん組織を43℃前後に温めるとされています。43℃で温められたがん細胞の何%が死ぬのでしょうか。どのように温めるかや時間など温熱条件によっても変わりますが、定量的に解析された研究や、温熱下でがん細胞がどのような応答をするのか、詳細に解析された研究はほとんどありませんでした。畠山がMDアンダーソンがんセンター在籍時に10種類の卵巣がん細胞を調べた結果、温熱下で死に至る温度に大きな違いがあり、43℃の温熱ではほとんど死なないがん細胞が存在することを世界で初めて見出しました(Hatakeyama H, et al. Cell Report, 17, 1621–1631, 2016)。つまり、抗がん剤に耐性があるように、温熱治療にも耐性を示す細胞が存在すると考えられます。温熱耐性細胞で特徴的な遺伝子の同定に成功し、これを阻害することで金属ナノ粒子によるがん局所温熱治療の効果を向上させることに成功しました。(「日経産業新聞2016年8月25日」、「千葉大学特色ある研究活動の成果」、「千葉大プレス」で研究成果が紹介されました)。


●温熱耐性メカニズムの解明とがん治療への展開

熱に弱いA2780細胞は、1時間46℃で温熱治療すると効率よく死にます。この際の細胞死様式は、温熱治療中の早期から生じるネクローシスと、温熱治療から24時間にかけて誘導される後期のアポトーシスでした。一方で、熱に強いSKOV3はどちらの細胞死も抑制されていました。

SKOV3細胞では、温熱治療後5時間経過すると解糖系酵素が減少していました。タンパク質、代謝物の変動のオミックス情報を用いることで、解糖系抑制が実際に代謝物量に影響し、温熱下での解糖系酵素減少のメカニズムを明らかとしました(Kanamori T, et al. Sci Rep, 11, 14726, 2021)。またエネルギー代謝が解糖系からミトコンドリアへとシフトする代謝適応(アダプテーション)が誘導されていることが示唆されています。このような代謝適応で細胞内のエネルギー産生を促進することで、細胞内のエネルギー不足を回避することが、後期の細胞死であるアポトーシスの抑制に寄与しているのではないかと考えられます。

熱治療早期に引き起こされるネクローシスは、細胞膜破綻が主な原因とされています。熱がかけられると細胞膜の流動性が上昇します。従って、温熱治療後のネクローシスの起こりやすさは、温熱治療中の細胞膜の安定が影響していると考えました。コレステロールは細胞膜の安定性に重要な役割を果たしています。実際に熱に耐性を示すSKOV3細胞はA2780細胞と比べてコレステロールが多く含まれていました。このコレステロールを除去するとSKOV3細胞は熱で死にやすくなりました。SKOV3を移植した担癌マウスでも、がん組織からコレステロールを除去後に、温熱治療を行うとがんの増殖を劇的に抑えることができました(Kanamori T, et al. Sci Rep, 15, 10133, 2025)。コレステロールの制御と熱を組み合わせることで、抗がん剤を使わないがん治療の可能性が示されました。本成果は本学より英文でプレスリリースされました(https://www.cn.chiba-u.jp/en/news/press-release_e250612/)。


 光温熱療法による複合免疫療法へ

 金や銀、銅などで作られる金属ナノ粒子は、光エネルギーを吸収し熱に変換します。この性質を利用し、金属ナノ粒子が集積した腫瘍局所に光を当てることで腫瘍組織の温度を上昇させがん細胞を殺傷する光温熱療法(PTT)の研究が進んでいます。光温熱療法でがん細胞を死ぬと、免疫原性細胞死(ICD)と呼ばれる免疫を活性化する細胞死が誘導されるといわれています。我々は金ナノロッドに近赤外光を照射し細胞を殺すとICDが誘導していることを見出しました。ICDは一部の抗がん剤でも起こるといわれていますが、抗がん剤よりも光温熱療法の方がICD誘導は優れていました。また担癌モデルにおいて、金ナノロッドが集積している腫瘍組織へ近赤外光を照射すると腫瘍増殖が抑えられ、さらに免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせることで優れた治療効果が得られました(Yasuda S, et al. Cancers, 18(2), 287, 2026 )。光という外部刺激による発熱を利用することで、直接がん細胞を殺すだけでなく抗腫瘍免疫を効果的に誘導し、免疫療法の奏効率を向上させる可能性が見出されました。